本研究課題では、全地表面が海面である仮想的な地球である「水惑星」の条件を用いて台風発生と海面水温分布の関係について明らかにした。実際に観測される西太平洋における台風発生の条件と初期過程について、海面水温分布と台風発生の関係を水惑星実験の結果を用いて説明した。また、海面水温を上昇させた水惑星実験の結果から、地球温暖化時の海面水温上昇が台風発生に与える影響についての解釈も得た。 本課題の全球大気モデルを用いた水惑星実験では、台風発生の環境条件をGray(1975)の発生パラメタを用い発生に適した条件を定量的に評価した。東西一様なcosine型の海面水温を与えた基準分布の実験に対し、水惑星の台風が発生した赤道上に+3Kの偏在(暖水塊)を与えた実験では、暖水塊の西側低緯度域で発生パラメタが大きく台風発生に適した環境であることを示した。この値は、西太平洋における観測で得られる値に匹敵した。この環境下で発生した水惑星の台風は、全個数のうち8割の台風が赤道域西風の強まりと、その西風域が東へ伝播する際に赤道をはさんでtwin cyclonesとして発生した。これは、西太平洋でエルニーニョ期に海面水温の高い領域の西側領域で強い西風(西風バースト)が観測され、西風域が東進する際にみられる twin cyclones と類似し、この仕組みを説明する。発生した台風回りの領域を拡大した領域モデル実験では、台風発生開始から数日間の台風の気圧低下(強化)は、赤道域西風の強まりとともに、台風を構成する積雲対流の変動と重なり進行することを示した。 全球の海面水温を東西一様のまま上昇させた(理想的な温暖化)実験では赤道域降水量の増加は見られたが、発生パラメタは大きな値を示さず、台風は発生しなかった。このことは、地球温暖化で起こる海面水温の全球的な上昇だけでは、台風発生に寄与しないことを定量的に明らかにした。
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