本研究は、上空の観測からヒートアイランド現象の実態、特に都市の冷却プロセスの解明を目指すものである。 本研究により京都市上空では、午後最高気温を記録してから、日没にかけて、地表付近の大気から冷えるのではなく、まず境界層全体の温度が低下し、その後、境界層上部は冷却が停止して徐々に成層構造を作っていくプロセスが明らかになった。これは、これまでの一般的な考え方とまったく異なっている。これまでは、地表面が冷えることにより、その直上の大気が冷却され、それが徐々に拡散することで、夜間の安定成層構造を作るとされていた。しかし、我々の観測では、逆に境界層上部から成層構造が形成されて徐々に下に降りてくる。これは、大気自身が放射で冷却されていることを示している。 一般的に、大気全層の放射平衡を考えた時に、大気の冷却率は2℃/日程度で、時定数は約1ヶ月程度であると考えられてきたが、観測された大気境界層内の冷却率は一桁大きく、時定数は1桁小さい。この原因として、大気全層のバランスに強く効く波長帯と、境界層のバランスに効く赤外線の波長帯が異なることによるものと思われる。放射平衡を考える時には、大気全層を光学的厚さ約1であると考えて大気を扱うため、これをそのまま境界層に適用すると、光学的厚さが約0.1ということになる。しかし、実際には境界層内では水蒸気の吸収帯などでの光学的厚さはかなり厚く、この波長帯での熱収支が境界層の気温変化に大きく効いているものと思われる。 さらに、都市部では日中に地表面が極めて高温になってしまうことが、大気の温度構造に大きく影響するが、この原因が都市部では地表面のサイズが大きく、このスケール効果によって、郊外に比べて表面温度が高くなることが明らかになった。
|