研究概要 |
沖縄トラフを大陸棚に沿って北上し,トカラ海峡から太平洋に流出する黒潮の流路変動機構の解明ために行ってきたトカラ海峡を横断する定期フェリーによるADCP(超音波流速プロファイラー)のデータの処理・解析結果から,計測値には通常行われているデータ処理では取り除けない誤差が含まれている可能性があることがわかった.その誤差の原因を突き止め,新たなデータ処理法を提案することを目的として本研究では,(1)フェリー航路上のトカラ海峡最深部付近で流速計の係留観測を行って潮汐流を見積もり,船底ADCPデータに潮汐流による誤差がどの程度含まれているかを明らかにし,(2)3次元GPSシステムを用いて黒潮流域で船体動揺による流速誤差を見積もる実験を行い,(3)較正済み時系列データセットの作成,を行う計画である.平成23年度は以下の観測およびデータ解析を行った. (1)ADCPデータに含まれる潮汐成分を評価するために,平成23年6月に鹿児島大学付属練習船「かごしま丸」の航海に便乗し,平成22年6月にトカラ海峡最深部(29-21.48N, 129-48.90E)に係留した3次元超音波流速計2台を回収し,同所での流速観測を継続するために2台の流速計を再設置した.この観測結果を用いて流速の潮汐成分を解析する予定であったが,係留系が黒潮により測器の測定限界以上に傾斜することがあり,計測期間の3分の1が利用不能なデータであった.そのためADCPと同時観測を行っているデータをピックアップして流向・流速値を比較した. (2)3次元GPSシステムによる船体動揺観測を平成23年7月に開始した. (3)フェリーADCPにより,トカラ海峡を横断する流向・流速データを167断面取得した. (2),(3)の結果より,船体の動揺特性によって流速誤差が異なる可能性がわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
観測は予定通り行われたが,データ処理と解析に手間取った.具体的には,係留流速計のデータが係留系の傾斜により,欠損期間がとびとびに出たため,データ解析方針の再検討に時間を要した.さらに3次元GPSシステムの船体動揺計測値にエラーが多く,データ処理に手間取ってしまった.
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今後の研究の推進方策 |
平成24年6月にすべての観測が終了するので,今後はデータ解析とADCPデータセット作成に集中する.問題点は,トカラ海峡における流速計の係留観測である.平成23年度に回収した流速計のデータが係留系の傾斜により欠損期間があったことが分かったのは,継続観測用の係留流速計を設置した後であったことである.この流速計は平成24年6月に回収する予定であるが,前年度と同様に欠損期間があれば潮汐流の見積もりへの影響の有無を判断の上でこのデータの利用方針を検討する.
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