研究課題/領域番号 |
22540455
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研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
山中 吾郎 気象庁気象研究所, 海洋研究部, 室長 (60442745)
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キーワード | 海洋物理・降水学 / 気候変動 / 環境変動 / 海洋科学 / 計算物理 |
研究概要 |
平成23年度は、入射角の時間変化を表現でき、クロロフィル分布依存性を考慮した新しい海洋短波吸収スキーム(新IY10スキーム)を導入した結果を、平成22年度に計算したコントロールランの結果と比較し、亜熱帯セルや物理-生物相互作用の影響を評価した。 まず、観測気候値のクロロフィル分布を与えた気象研究所海洋大循環モデルを300年程度積分し、亜熱帯セルの強度がどのように変化するかを調べた。その結果、亜熱帯セルの強度は20%以上強化されることがわかった。これは新IY10スキームを導入すると、表層で加熱、亜表層で冷却を受け、混合層深度が減少するため、混合層内を赤道方向に向かう地衡流量が減少し、エクマン流と地衡流との残差として得られる表層の極向きの流れが強化されるためである。したがって、クロロフィル分布は東部熱帯太平洋域を低温化する影響を与えることが明らかになった。変動場においても、混合層深度の減少に伴い、亜熱帯セルの変動の振幅は強化された。 次に、気象研究所海洋物質循環モデルで計算された経年変動するクロロフィル分布を用いて、新IY10スキームの影響を評価した。その結果、クロロフィル濃度が高くなるラニーニャ時に海面付近で局所的な短波吸収による加熱を受け、ラニーニャの振幅を弱める結果、ENSOの非対称性を生じさせるという効果が認められたものの、定量的にはその振幅は小さく、定性的には気候値のクロロフィル分布を与えた場合と同様の振る舞いが見られた。 以上より、熱帯太平洋の短波吸収におけるクロロフィル分布の影響については、平均場、変動場のいずれにおいてもクロロフィル分布域で短波吸収が卓越することによる局所的な加熱(直接効果)よりも二次的な力学的応答による冷却(間接効果)が卓越していることがわかった。 また、新IY10スキームを大気海洋結合モデルへ導入し、数十年程度積分し、比較用データセットを作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、平成23年度は新IY10スキームを導入した結果をコントロールランと比較することとしていた。今年度までに海洋大循環モデルおよび海洋物質循環モデルを用いた比較は終了し、大気海洋結合モデルを用いた比較についても結合モデルへのスキームの導入、長期積分まで終了した。以上から、研究は概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、大気海洋結合モデルへの新IY10スキームのインパクトを解析し、単体モデルで明らかになった亜熱帯セルの変化が結合系でどのように変調され、その結果、大気の循環場(降水量・風系)にどのような変化を生じさせるかを明らかにする予定である。また、成果のとりまとめを行う。
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