平成24年度は、入射角の時間変化とクロロフィル分布依存性を考慮した新しい海洋短波吸収スキーム(新IY10スキーム)を気象研大気海洋結合モデル(ESM1)に導入した結果を解析し、そのインパクトを評価した。 まず、新IY10スキームを実装したESM1を20年程度積分し、通常のスキームと比較して熱帯太平洋の平均場がどのように変化するかを調べた。その結果、亜熱帯セルの強度は10%程度強化されるとともに、太平洋赤道域で海面水温が低下し、中部から東部の混合層深度が減少するという、海洋単体モデルと共通した応答が見られた。一方、(1)亜熱帯セルの強化は赤道付近(南北5度)に限定、(2)海面水温分布に南北非対称性が出現、(3)西部太平洋赤道域では混合層深度が増大、という海洋単体モデルとは異なる特徴が見られた。これは、熱帯太平洋の海面水温低下に伴う結合プロセスにより、南太平洋収束帯(SPCZ)が強化され、それに伴って赤道付近で貿易風が強化するとともに、南緯10度付近で貿易風が弱化したためである。この大気場の南北非対称性に伴う海面熱フラックスの変化が海面水温分布に南北非対称性を生じさせ、南緯10度付近の貿易風の弱化によって海洋表層の極向きエクマン輸送が弱まった結果、エクマン境界層深度の減少に伴う極向き輸送の強化を相殺したと考えられる。 次に、時間変動場への影響を評価したところ、混合層深度の減少に伴って広い海域で海面水温変動の振幅の増大が見られるとともに、亜熱帯セル強度の十年規模変動が変調されることがわかった。 以上より、熱帯太平洋の短波吸収におけるクロロフィル分布の大気海洋結合系への影響については、平均場、変動場のいずれにおいても有意なインパクトがあることが認められた。このことは、結合モデルを用いた熱帯の長期変動のモデリングにおいて、海水の光学的特性の取り扱いが重要であることを示している。
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