本研究は、加熱実験によって人工的に有機熟成させた現生花粉と天然の有機熟成を受けた化石有翼型花粉の色調(R、G、Bの各強度、色相、明度、彩度)を定量的に測定し、有機熟成にともなう花粉粒子の色調変化を解明することを目的とする。 加熱実験ではクロマツ(Pinus thunbergii)の花粉を、63℃から355℃まで、24時間、窒素下で加熱した。化石花粉は、基礎試錐「小国」の中新統~更新統泥質岩に含まれる有翼型花粉(マツ属、マキ族、モミ属、トウヒ属の花粉)を測定対象とした。色調測定は、生物顕微鏡下で同定した花粉粒子を、顕微鏡に接続したデジタルカメラで撮影し、デジタル画像としてコンピュータに取り込む。次に、コンピュータのディスプレイ上で測定範囲を指定し、画像解析ソフトウェアのWinROOFを用いて色調を測定する。 色調測定の結果、現生クロマツ花粉のR、G、Bの各強度と明度は、加熱温度の上昇に伴い減少する傾向が認められ、色相はほぼ一定で赤~黄色を示し、彩度は増加することが判明した。化石花粉に関しては、基礎試錐「小国」において、加熱花粉と同様にR、G、Bの各強度と明度が有機熟成の進行に伴い減少し、色相はほぼ一定で赤~黄色を示し、彩度は増加することが判明した。しかし、有機熟成が進行し油生成帯を越える範囲では、系統的な傾向が認められない。 有機熟成指標であるビトリナイト反射率(R_0)および統計的熱変質指標(stTAI)と比較すると、R、G、Bの各強度と明度は、それらの値と高い相関関係を示す。しかし、色相はR_0とstTAIに対して相関が低く、彩度はstTAIと高い相関を示すが、R_0との相関は低い。 以上の事実から、花粉粒子のR、G、Bの各強度と明度は、有機熟成の進行とともに規則的に減少し、他の有機熟成指標との相関も高いことが判明した。今後、測定対象を年代的、地域的に増やしていけば、花粉粒子の色調は石油探鉱等で有効な有機熟成指標に成り得ると期待される。
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