地質時代のメタンハイドレート存在の証拠となる地層中の変形構造とその判定基準を明らかにすることを目的として,千葉県房総半島の更新統上総層群を中心とした変形構造調査と,ガスの発生と移動がもたらす変形構造の水槽実験を行った. 上総層群梅ヶ瀬層の特定層準には多様な未固結変形構造と脱水構造がみられる.すなわち,(1)砂の層状注入,(2)砂脈,(3)砂のレンズ:泥層内部にレンズ状~不規則な形状で注入した小規模な構造.(4)ストロー状構造:砂層中パイプ状に粘土分を洗い流した構造,(5)泥脈,(6)砂のブロック:タービダイト砂層中にとり込まれた砂層の偽礫,(7)粒子配向の乱れ,(8)浮上した偽礫,(9)逆ロート状噴出構造,である. 砂層中に水を注入しただけでも,上記(1)と(2)の構造が,ガスを注入すると(9)の構造が,ガスに続いて水を注入すると(2)の構造が,それぞれ再現された.間隙水で満たされた砂層中でガスを発生させるために減圧したところ,(A)砂層を減圧した場合は,砂層の間隙水中に微少な気泡が発生して膨張するため不飽和で強度を増した.しかし砂層上部に間隙水が集まると間隙水圧も上昇して,強度が低下して流動した.膨張した気泡が砂層上部に達すると,流動的な砂層中を一気に上昇して破壊した.上位に泥層があると,ガスと水の層を形成する.これが泥層を破壊すると,ガスに続いて水が脈状に注入し,砂脈やシルとして地層中に破壊構造を残した.さらに,(B) 泥層に見立てたゼラチン中では,その場でレンズ状気泡が拡大した.それらが連結して上位の砂層に達すると,ガスは砂層中へ一気に注入し,入れ替わりに砂層中の間隙水が入り込んで小規模な砂脈を残した.これらの破壊様式は,上総層群にみられる多様な変形構造をよく説明することから,メタンハイドレート分解に伴う変形構造の証拠となりうる.
|