鹿児島県奄美大島宇検村宇検と高知県幡多郡大月町の造礁サンゴ生息海域において,水中カメラとスケッチを用いて群集の分布と登場種に関する情報を得た.同じ海域で,造礁サンゴ群集の生存する海水の化学的な性質を理解するために,2日間にわたって海水をポリビンに採取し,それを仙台に郵送した.東北大学の実験室で,ガラス電極を用いて,ph-アルカリ度法によるサンゴの石灰化速度と光合成速度を測定した.さらに,これらの速度をモデル化する目的で,光量子フラックスと海水温を一定に保った実験室で最終実験を行った.海水に含まれている微量成分を正確に測定するために,イオンクロマトグラフィーを用いた. 今回設定した試料については,24時間周期の実験時間が経過しても光合成速度と石灰化速度が大きく変化しなかったため,造礁サンゴの石灰化機構が比較的単純でモデル化しやすいことが判明した.仮に,重炭酸イオン生産速度とカルシウムイオン固定機構が同じであれば,何れかの観測のみで石灰化速度を決定することが可能である.さらに,酸素濃度と光合成速度の変化傾向も類似しているため,酸素濃度の測定だけで有機炭素生産が決定できる. 石灰化と光合成速度の計算式に基づき,数値実験を行い,日周変化に相当する造礁サンゴ1群体内の化学成分の時間変化を出力した.その際,光量子フラックスは24時間で変動するが,光の強さは夜と昼で一定とした.その結果,水素イオンと水酸化物イオンのカップリングが存在しないと,細胞内部が異常な状態となることが判明した.
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