研究概要 |
本研究目的は「海生無脊椎動物の貧栄養化に対する数千年スケールでの適応戦略」と「過去7,000年間の環境変動復元に基づく日本周辺気候への太陽活動の影響」を解明することにある.対象試料は,沖縄海域の海底洞窟に生息する微小二枚貝イエジマケシザルガイ(殻長3.5mm以下)で,それらの貝殻の酸素同位体比と微量元素から,「過去の水温情報」と「殻成長パターン」の時系列データから,本研究の目的を果たす.そのためには,イエジマケシザルガイの殻の成長に関する知識が不可欠である.そこで,当該年度は,標識個体の成長追跡調査(生貝を標識・放流し,再捕獲して殻の成長量を調べる)を4つの異なる期間で実施した.その結果,同種は1年を通して成長している可能性が高く,殻長3mmに達するまでに4年間を要することが判明した.さらに,水温の異なる2つの海底洞窟(大洞窟と小洞窟;小洞窟の水温は大洞窟よりも夏季に1-2℃高い)から生貝を採取し,酸素同位体比と炭素同位体比を測定した.その結果,小洞窟の個体の一部の殻の酸素同位体比は,速度論的効果の影響を受けている可能性が高いことが分かった.一方,大洞窟の個体では速度論的効果の影響は検出されなかった.したがって,大洞窟のイエジマケシザルガイの殻の酸素同位体比は,年間平均水温を記録していると見なせる.成長追跡調査を行い,殻の形成期間が分かった生貝試料については,殻断面を研磨して,ストロンチウム,マグネシウム,イオウの元素マッピングを行った.その結果,イオウの分布パターンが殻成長パターンの解析に最も適していることを明らかにすることができた.
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