研究概要 |
今年度は,昨年度に引き続き富山県三田層の貝形虫・浮遊性有孔虫化石に関して,さらに試料数を増やして分析を行った.その結果,MT1凝灰岩層(FT年代は3.4~3.5Ma)の層準よりも下位では,暖流の影響を示唆する貝形虫種は少ないことが明らかになった.また,この凝灰岩層の直上下では寒流系種が卓越していたが,数m上位で暖流の影響が強いことを示唆する貝形虫化石群集が認められた.このように,三田層に関しては,本格的に暖流の影響が及んだ年代が3.4~3.5Maであること,およびすでに水温の周期的変動は存在していたことがわかった.次に,昨年度予察的調査を行った新潟県胎内市に連続的に露出する鍬江層について,本格的な地質調査,堆積相の記載,および微化石用試料の採取を行った.採取した試料を処理した結果,ここからは貝形虫化石,珪藻化石,浮遊性有孔虫化石の産出が認められた.そこで,主に貝形虫化石について群集解析を行い時系列変化を検討した結果,周期的な群集変化が認められた.また,ここから産出する貝形虫化石のうち,深海泥底に生息するタクサであるKrithe属の殻を用いて微量元素分析を行った結果,Mg/Ca比に関して周期的な時系列変動が認められた.得られたMg/Ca比の値を使ってこれまでに報告されている水温への換算式(Dwyer et al., 2002)を用いて古水温を算定した.その結果,約3~9℃の範囲で明瞭に変動していることがわかった.従来の研究では,間氷期には水温6~20℃の水塊が日本海の中層に発達していたと考えられていた(Irisuki et al., 2007).今回はそれを支持する結果となったが,予想していた水温の範囲の中でもより低い温度であった可能性が示唆された.今後は個体数を増やし,古水温の精度を上げる必要がある.他にも上記の結果を比較するため,他の鮮新統の調査分析を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに,予定していた地質調査および試料採取も順調に進み,当初の重要な目的である暖流の流入時期の特定と汎世界的な気候変動との関連性については,年代測定や対象とした微化石分析の結果,ほぼ結論が得られつつある.さらに,当時の古水温・古水深変動の推定を行うという目的に関しても,貝形虫化石殻の微量元素分析および貝形虫化石の群集解析が順調に進み,まだ誤差範囲は大きいがおおよそ解明されてきた.以上のような成果が上がっていることから,目的達成に向けておおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,あと1カ所の鮮新統(新潟県四十日層)において,地質調査と試料採取を行い,種々の分析を行う予定である.また,貝形虫化石殻および堆積物中の有機物の微量元素分析に関して,試料数や地点数を増やし,研究地域全体における環境および生物生産性の変化について検討する予定である.さらに,これまでの成果について,学会発表は順調に行ってきたが,学術論文への投稿がやや遅れているので,最終年度には推進していく予定である.
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