平成24年度は、北海道空知地域の石狩層群若鍋層・赤平層(中部始新統)および福島県・茨城県常磐地域の白水層群石城層(上部始新統)・湯長谷層群“滝層”(“下部中新統”)を対象に野外調査を行うとともに,ブロック試料の採取ならびに前年度までに採取した試料も合わせてクリーニング作業を行った.クリーニングの終わった標本について,分類学的・古生態学的・古生物地理学的検討を行い,最新の年代尺度に基づき日本産古第三紀内湾性貝類化石群の時代的変遷について総括を行った.その結果は以下のとおりである: (1)九州の中期始新世前期(約46 Ma)の内湾性貝類化石群集の属組成はそれ以後のものとは異なる; (2)北海道の中期始新世内湾性貝類化石群集はOstrea イタボガキ属の多産により特徴づけられる.本属はサハリン・カムチャッカ半島の古第三系からも多産し,瀬戸内海東部沿岸地域の始新統からも産する.しかしながら,九州の古第三系からの産出は確認できなかった; (3)九州~東北地方南部の内湾干潟群集を特徴づけるオニツノガイ超科は時代により属構成が大きく異なる.北海道の古第三系からは本超科の産出は確認できなかった; (4)常磐地域の“滝層”下部は貝類化石群集の種構成から石城層に含められる; (5)西南日本の漸新世内湾性貝類化石群集はCrassostrea マガキ属,“Batillaria” “ウミニナ属”,Meretrix ハマグリ属の多産により特徴づけられる; (6)内湾性貝類化石群集にCyclina オキシジミ属が加わるのは北海道・九州ともに中期中新世の中頃(約44 Ma)である.(7)内湾性貝類化石群集にRuditapes アサリ属が加わるのは前期漸新世後期(約28 Ma)である. 以上の結果により,日本における始新世~漸新世内湾浅海性貝類化石群集の種構成と時代的変遷が明らかとなった.
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