本申請課題は、超高圧・高温下で出現すると理論的に予測された氷の超イオン伝導体相が、本当に存在するのか否か、もし存在するのであればその物性(抵抗の圧力・温度変化など)はどのようなものなのか、実験的に明らかにしようとするものである。 本年度はダイヤモンドアンビルを用いた電気伝導度測定用セルデザインを確立した。金属レニウムに電気絶縁物質である立方晶窒化ボロン粉末を積層に重ねたガスケットを用いた。試料室内部にプラチナ箔電極を2個配置し、プラチナ箔リード線及び銅線により、インピーダンスアナライザーに接続した。擬似4端子法により、水及び氷のイオン抵抗を測定することが可能となった。目標圧力にて、両側からファイバーレーザーを照射し加熱した。プラチナ電極がレーザー吸収剤として機能し、電極間の氷試料が熱伝導により高温となる。可視光CCDを用いた輻射分光法により発生温度の決定を試みた。各温度にて、イオン抵抗を測定した。 これまで、40~50GPaにおけるレーザー加熱中、イオン抵抗の不連続減少を観察することに2回の実験ランで成功した。いずれも可視光CCDでは輻射光を得られない程の低温(1200K以下)であった。一方、ほぼ同じセルデザインを用いた別の実験ラン(全4回)では、イオン抵抗は投入レーザー出力(温度に比例と考えられる)に対して連続的に減少した。この相違の原因の一つとして、電極間及び電極内の水素原子キャリアーの拡散が律速したことが考えられる。なぜならば、イオン抵抗が連続的に減少した場合のみ、高温下のインピーダンススペクトル中に、ワールブルグインピーダンスと呼ばれるイオンキャリアー(水素)の拡散に伴うインピーダンスが顕著に出現していたからだ。 次年度は、(1)赤外線カメラを用いた1200K以下の発生温度測定法の確立と、(2)試料中あるいは電極内の水素拡散律速を回避する条件の解明を行う予定である。
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