研究課題
超高圧・高温への通り道である室温下の加圧過程で、プロトン抵抗値を測定したところ、驚くべき現象を再現良く得た。室温下・約2~60GPaで安定なH_2Oの固相はVII相のみと一般的に考えられてきた。しかしプロトン抵抗値は、約3GPaで極大値を取った後、加圧に伴って低下し、約10GPaでは3GPaよりも1桁近く小さい極小値を取った。その後加圧に伴って上昇し、約20GPaでは3GPaと同程度の抵抗値となった。以降40GPaまでほぼ変化は無かった。この現象は、今までの氷の相平衡図からは考えにくい。新たな相転移、未知相の発見の可能性があるため、本年度はこの低プロトン抵抗領域の本質を解明することに焦点を当てた。第一に、プロトン抵抗値の変化が、試料形状(電極の大きさや電極間距離)の圧力変化ではなく、氷試料そのものの物性値であるプロトン伝導率の変化であることを確認するために、様々な電極配置デザインを試し、圧力変化に伴う試料形状変化の推定を行った。その結果、10GPa付近で高プロトン伝導となるのは氷の物性であることが本研究ではじめて明らかになった。第二に、室温高圧下粉末X線回折測定を行ったところ、立方晶VII相ピークのわずかな分裂が、約10GPa以降で観察された。よって、高伝導率異常は、VIIの圧力誘起構造変化に起因するものと推定された。第三に、定荷重温度変化実験を行ったところ、低温ほど低い伝導率を示した。また低温で安定化する水素秩序配列VIII相は、無秩序配列であるVII相よりも低伝導率であった。よって、氷の伝導率変化では、プロトンの移動度(平均自由行程)変化よりも濃度変化が支配的であることを示唆する。また定荷重下VII-VIII境界では、伝導率の明瞭な不連続や温度依存性の大きな変化は観察されなかった。即ち、約10GPaの高伝導率異常は、VIII相でも存在することを明らかにした。
3: やや遅れている
実験途中で未知の現象を発見し、本年度はその解明に費やしたため。
本年度は室温下及び低温下高圧実験を繰り返し行うことによって、電極セルデザインの最適化は十分に行えた。最終年度は高温実験を中心に行い、当初の目的を完遂できると考えている。
すべて 2012 2011
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件) 学会発表 (8件)
PHYSICAL REVIEW B
巻: 85 ページ: 094113
10.1103/PhysRevB.85.094113
PHYSICS AND CHEMISTRY OF MINERALS
巻: 39 ページ: 123-129
10.1007/s00269-011-0467-7
HIGH PRESSURE RESEARCH
巻: 31 ページ: 592-602
10.1080/08957959.2011.618130
INORGANIC CHEMISTRY
巻: 50 ページ: 11787-11794
10.1021/ic201901a
JAPANESE JOURNAL OF APPLIED PHYSICS
巻: 50 ページ: 095503
10.1143/JJAP.50.095503
巻: 50 ページ: 3281-3285
10.1021/ic101916c
JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY
巻: 133 ページ: 6036-6043
10.1021/ja200410z