本研究では、5配位Fe3+の配位環境とその化学結合性の関係を明らかにするために、5配位Fe3+をもつ化合物としてFeVO4とPb4Fe3O8Clを取り上げ、これら化合物のX線構造解析を行った。 昨年度(平成23年度)において、FeVO4の良質な単結晶合成に成功し、その精密な単結晶X線構造解析に成功し、この化合物の5配位Fe3+-O距離を、既報の5配位Fe3+-O距離よりも高精度に決定できたことを報告した。今年度(平成24年度)は、さらに解析を進め、差電子密度解析を行ったが、結合電子など化学結合性を明らかにできるような結果には至らなかった。しかしながら、正方錐面体配位されたFe3+をもつFeVO4の5配位Fe3+-O距離は、三方複錐面体配位されたFe3+をもつ化合物の5配位Fe3+-O距離よりも有意に短いことがわかった。 Pb4Fe3O8Clについては、昨年度に引き続き、合成条件を探索しながら単結晶合成を試みたが、X線構造解析に耐えうるだけの良質な単結晶を得ることができなかった。しかし、固相反応法による粉末試料の合成を行い、合成条件の最適化の結果、少量の不純物相が残存しているものの、単一相に近い試料が合成できた。その不純物相も考慮し、リートベルト法による多相解析によるPb4Fe3O8Clの構造精密化を行った結果、既報の結果よりも高精度に構造パラメータを決定できた。Pb4Fe3O8Clは、FeVO4と同様に、正方錐面体配位されたFe3+をもち、その5配位Fe3+-O距離はFeVO4のものと同程度であった。FeVO4とPb4Fe3O8Clの両者とも、5配位Fe3+-O距離は三方複錐面体配位のFe3+をもつ化合物のものよりも有意に短いことから、正方錐面体配位されたFe3+-O結合は、三方複錐面体配位の場合よりも共有結合性が強いと考えられる。
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