研究概要 |
かんらん岩の蛇紋岩化作用は、還元的な環境をつくり出し、生命の起源となる水素を好む好熱菌を発生させたと考えられ、近年注目を浴びている。また、沈み込み帯におけるウェッジマントルの蛇紋岩化作用は地震発生と密接に関係しており、地震学的にも活発に研究が進められている。今年度の研究では、海洋研究開発機構研究船『よこすか』,『かいれい』によって北部マリアナ前弧に位置する二つの蛇紋岩海山(雷神海山とツインピークス海山)から回収されたかんらん岩試料を用いて、沈み込み帯深部で進行している蛇紋岩化作用を岩石・鉱物学的に理解する目的で行った。偏光顕微鏡、EPMA,微小領域XRDを用いて、詳細な岩石学的・鉱物学的解析を行い、以下の成果を得た。(1)高温型の蛇紋石鉱物であるアンティゴライトが両者のかんらん岩から発見された。アンティゴライト+ディオプサイド+かんらん石+トレモラ閃石の共生から、蛇紋岩化作用が400-500℃で生じたと考えられる。(2)蛇紋石作用の際に、Feに富む変成かんらん石(Fo_<77-88>)とFeに乏しい変成かんらん石(Fo_<92-95>)の両者が形成されることが明らかとなった。(3)Feに富むかんらん石は、熱水の経路に集中すること、Feに乏しい変成かんらん石の形成は、磁鉄鉱の形成に密接に関係があることを見いだした。(2)の二種の変成かんらん石の発見は世界的にも例が無い。(3)で示したように、Feに富むかんらん石と磁鉄鉱の分布は強い相関があり、また、流体の通路とおぼしき箇所に集中する。Feに富むかんらん石の形成については、Feに富む熱水の関与、磁鉄鉱の分解によるFeの供給の可能性などが考えられる。かんらん石の著しいMg/Fe比のばらつきは、一つの試料についても認められ、その原因解明は今後の重要な課題である。
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