本研究の目的は、熱水に溶存する有機・無機窒素の安定同位体比と環境DNAの同時解析という新手法を用いて、熱水域での窒素動態と微生物相の関係を明らかにすることにある。平成22年度は、研究船「ちきゅう」による沖縄トラフ熱水活動域の掘削航海(IODP exp.331)に参加し、活動域の周縁部から中心部にわたって堆積物および間隙水試料の採取ならびに間隙水窒素化学組成の定量をおこなった。その結果、海底下を水平方向に流れる複数の熱水を発見し、伊平屋北熱水域の東側海底下に幾重にもおよぶキャップロック構造が発達した高温熱水の移流と滞留、海底下熱水と浸透海水との混合過程における熱水変質帯(熱水の影響を受けて変質した地層が分布している範囲)の存在の発見、海底下に存在する熱水滞留帯の上部には蒸気相に富んだ軽い熱水が、下部には塩分に富んだ重い熱水が滞留していること、アンモニア濃度は硫酸濃度に応じて変動すること、間隙水の硝酸が海底下の熱水の流れのトレーサーになることが分かった。一方、培養菌株を使った実験系を組み立て、海底堆積物に含まれる環境DNAの中から硝酸還元、アンモニア酸化といった窒素のエネルギー代謝を触媒する酵素をコードする機能遺伝子を検出、定量する方法を確立した。化学組成鉛直分布と、今回確立した機能遺伝子検出手法を使った機能遺伝子組成解析を次年度行うことで、海底下熱水域で起きている窒素代謝と挙動が明らかにできると期待される。
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