平成24年度は、研究の対象を前年度に引き続き電磁流体力学におけるエネルギー伝達の定量的評価を目標におき、解析を進めた。 平成23年度に発見された、外力の無い状況下における自己相似的な自由減衰解において、エネルギーの規格化を行ってもなお、慣性項ならびにHall項における非線形性によるエネルギー伝達が時間とともに相対的に逓減していく現象の解明を行った。このような非線形性の逓減は中性流体ならびにHall項の効果を含まない電磁流体における一様等方性乱流においてはいくつかの研究が散見されたが、Hall項の効果を含む場合において具体例が見つかったのは初めてであると考えられる。特にエネルギースペクトルの自己相似性が得られているので、この逓減現象はHall電磁流体力学における流れ場と磁場のトポロジーの傾向の変化に基づいていると考えられる。 今年度の主なターゲットはこの現象の基盤となる物理的機構のトポロジーの側面からの解明であった。Hall電磁流体力学の非散逸極限における保存量を手掛かりとした解析を行い、ヘリシティスペクトルの挙動の時間変化を追跡し、小スケールでの等方化のメカニズムが全体としては大スケールでの鏡像対称性の破れを促進する効果を持つことが示された。 また慣性項、Hall項の非線形性の強度の逓減に関して、ローレンツ項、電磁誘導項の効果を含めた、磁場・流れ場間のエネルギー輸送の全体を見ると、時間的に定常な状態に収まっていることが発見された。これはエネルギーの相互作用の様式が時間とともに慣性項からローレンツ項へ、Hall項から電磁誘導項へとゆっくりと変化していることを示している。これは磁場、流れ場のおのおので見ていくと、非線形性を緩和しつつ、エネルギーの伝達の総量は維持されるトポロジカルな機構の存在が示唆されており、この現象のさらなる解明が必要であると考えられる。
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