励起分子の性質を強く支配する空電子軌道の実験的観測の実現を目的として、電子‐分子衝突過程で非弾性散乱された電子と生成励起分子の後続解離過程で生じる解離イオンとを同時計測する「解離イオン同時計測電子エネルギー損失分光法」の開発を、昨年度に引き続き行った。本年度は、散乱電子の捕集効率を大幅に改善することを目的として、一定のエネルギー領域にわたって散乱電子の強度分布を同時に計測するエネルギー分散型電子分析器を製作した。散乱電子検出のマルチチャンネル化により、約一桁の検出効率の改善を可能としている。本電子分析器に加え、昨年度に製作した画像観測型イオン分析器を既存の角度分解型電子エネルギー損失分光器に組み込むことで、同時計測装置を構成した。本装置の立ち上げを行った後、窒素分子の内殻電子励起を対象に、散乱電子と解離イオンとの同時計測実験を試みた。内殻励起分子はオージェ過程を経由して分子の回転周期よりはるかに短時間でほぼ100%イオン解離するため、本実験手法の確立に絶好の場を与える。散乱断面積が比較的大きな前方散乱を対象として最適な測定条件を探索し、実験を行った結果、散乱電子と解離イオンとの同時計測信号をとらえることに成功した。得られた測定結果を解析したところ、分子の配向方向に依存した電子散乱断面積の変化を求めることができ、分子座標系における電子エネルギー損失分光測定を初めて実現した。この結果は、本研究が目的とした空分子軌道イメージングに関し、その実験基盤が確立できたことを意味する。
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