平成24年度は、テラヘルツ振動領域に観測が予測されている弱い水素結合の伸縮振動のモードを明らかにし、更に、弱い水素結合ネットワークの違いにより結晶多形を生じる分子について、分散力を取り込んだテラヘルツ分光スペクトル測定と理論解析を行った。分散力を取り込むことによって、最適化構造は1 %以下の誤差でX線構造解析の実験データと一致し、計算した振動数は10cm-1以下の誤差で低温テラヘルツ分光スペクトルを再現した。分散力補正した高精度大規模計算により、低温で測定した複雑なテラヘルツスペクトルのすべてのピークをあいまいさなく同定できた。分子間で結合する弱い水素結合の伸縮振動は分子間の並進モードとして現れる。弱い水素結合の伸縮振動がテラヘルツ領域に現れることは予想されていたが、実際に明確に同定した例はない。本研究において、テラヘルツスペクトルの明瞭さと、弱い水素結合を記述できる分散力を取り込んだ第一原理計算の開発により、はじめて弱い水素結合の伸縮振動モードが明らかにされた。また、予想される弱い水素結合の伸縮振動モードを含む並進振動モードと、弱い水素結合の伸縮振動モードを含まない並進振動モードがテラヘルツ領域に観測され、弱い水素結合の伸縮振動モードを含む並進モードでは含まないモードに比べ、振動数が高くピーク強度が強いことがわかった。これらの結果をベースに、偏光スペクトル測定と組み合わせることで、結晶多形における弱い水素結合ネットワークの差異を明らかにできる。本基盤研究での一連の結果の総まとめとして、テラヘルツ振動と結晶中の水素結合ネットワークについてレビューを執筆した。
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