研究概要 |
本研究では,スーパーオキシドラジカル(・O^-_2)が関与する反応の場としてクラスター(気相分子集合体)を用いることによって,(i)気相における新規な・O^-_2反応を開拓する,(ii)溶液における・O^-_2反応の機構を解明することを目的として以下の成果を得た. 1.Peroxy型S_2O^-_6の生成と構造:昨年度までに構造と生成機構を解明したperoxy型OOSO^-_2を反応試剤とするクラスター内反応によって,さらにSO_2が1分子付加したperoxy型S_2O^-_6の生成を目指した.SO_2/O_2混合クラスター系の電子付着過程を用いてS_2O^-_6を調製し,光電子分光とab initio計算を併用してperoxy型負イオンO_2S-OO-SO^-_2の生成を確認し,その構造を推定した. 2.Peroxy型CO^-_3およびNO^-_3の生成と電子束縛エネルギーの決定:CO_2/O_2およびNO/O_2クラスター系の電子付着過程によって生成するperoxy型負イオンOOCO^-_2およびOONO^-の電子束縛エネルギーを光電子分光測定から決定し,高精度ab initio計算を用いて構造および生成機構を推定した. 3.ONOO^-・(H_2O)_nを経由したONOOCO^-_2の生成:生体内でO^-_2,NO,CO_2からNO^-_3+CO_2あるいはNO_2+CO^-_3が生成する反応の中間体とされるONOOCO^-_2の候補イオンをクラスター反応を利用して生成し,質量分析で同定した.並行してab initio計算によってONOOCO^-_2の構造を推定し,断熱的に相関するNO_2(X^2A_1)+CO^-_3(X^2B_2)チャンネルへの結合解離エネルギーを推定した.この結果から,溶液反応で予測されているラジカル対生成過程は孤立系においては吸熱的であり,反応の進行に水和が重要な役割を果たしていることを示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度には「・O^-_2付加反応の系統的な探索」および「ONOOCO^-_2を経由した・O^-_2の転換反応」を計画していた.前者については,光電子分光と量子化学計算によってS_2O^-_6,CO^-_3,NO^-_3などのperoxy型生成イオンの幾何構造・電子状態・生成機構に関する情報が得られた.後者については,イオン源の改良によるONOOCO^-_2生成効率の向上や量子化学計算による構造予測に進捗があったが,東日本大震災の折に一部破損した装置の修理に時間が掛かったことなどから,光電子分光測定には至らなかった.これらを総合して(2)の達成度であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は研究計画の最終年度であることから,これまでの研究成果を取りまとめて学会誌等に発表すると共に,生体反応の重要な中間体とされながら,同定例のないONOOCO^-_2の光電子分光測定に注力する.ONOOCO^-_2は待異的に大きな電子束縛エネルギーをもつと予想されるため,光電子脱離に用いるレーザー光の短波長化が必須であり,3倍波発生やラマンシフトなどの非線形光変換による測定を試みる.このために,他の実験に用いていたインジェクションシーダー付高出力レーザーを移設して光源系の改善を図るなどの方策を予定している.また,平成23年度から光電子分光装置の改良を進めており,より精度の高い光電子測定を目指す.
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