本研究では,スーパーオキシドラジカル(O2-)が関与する反応の場としてクラスターを用いることによって,(i)気相における新規なO2-反応を開拓する,(ii)溶液におけるO2-反応の機構を解明することを目的としている.本年度は以下の成果を得た. (1) O4-によるSO4-構造異性体の生成:これまでの研究でSO2/O2クラスター系への電子付着過程によってペルオキシ型負イオンO2SOO-が生成することを実験・計算で示したが,本年度はイオンクラスター源を改良することによって反応種の識別を可能とし,O4- + SO2反応によってS原子を中心とするテトラヘドラル型SO4-とペルオキシ型O2SOO-の両者が生成することを明らかにした.更に,O2- + SO2反応ではSO4-生成の断面積が顕著に減少すること,[16O2・18O2]-を反応試剤とすることで共鳴構造体O4-がO2…O2-として遷移状態に関与することを示唆する結果を得た.これにより,一分子溶媒和がスーパーオキシドラジカルの1電子還元過程を効果的に抑制して付加反応の断面積を劇的に向上させるのみならず,O-O結合解離チャンネルが存在することを明らかにした. (2) O2-(H2O)nとSO2との反応:前項(1)の結果を踏まえ,大気中で進行すると考えられるO2-(H2O)n + SO2反応を調べ,O4- + SO2反応と同様に2種類のSO4-構造異性体が生成すること,ひとつの遷移状態[SO2…O2-…M]*から生成物分岐が進行していることを明らかにした. 以上のように,一分子溶媒和によってスーパーオキシドラジカルの反応性が顕著に変化し,大気化学の重要な素過程を構成することを裏付ける成果が得られた.
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