DNA/RNA は遺伝情報の保持・蓄積やタンパク質合成のための情報伝達の役割をしている重要な生体高分子である。これを構成する核酸塩基のO原子をS原子に、または分子骨格にあるC原子をN原子に置換した置換核酸塩基は、その構造が通常核酸塩基によく似ているため細胞内に取り込まれる。これら核酸塩基は薬剤としても使用されているが、これを取り込んだがん細胞はUV光照射によってアポトーシスを引き起こす。置換核酸塩基の励起状態の緩和過程は通常核酸塩基と大きく異なり、励起三重項状態への超高速項間交差である。置換核酸塩基の電子状態や励起状態の緩和・反応過程について詳細に調べることは、通常核酸塩基の励起状態緩和過程を理解する上でも重要である。 本研究では、過渡吸収法、時間分解熱レンズ法、近赤外分光法、光検出光音響法を用いて、置換核酸塩基の励起状態の反応性および多光子吸収スペクトルの測定を行い、励起状態の知見および酸素との反応性を調べた。アザ置換核酸塩基はnπ*電子励起状態のエネルギー位置によって緩和過程が大きく変化した。また、上智大学南部伸孝教授の協力を得て、ab initio MD法を用いてアザウラシルのS2→S1の非断熱遷移を検討した結果、40 fs以内に遷移が起きていることが明らかとなった。UVA 領域に吸収帯をもつチオ置換核酸塩基は高い項間交差量子収率をもち、一重項酸素を効率よく生成する。また、一重項酸素とチオ置換核酸塩基との反応性も高いことがわかった。以上のことから、置換核酸塩基の高い項間交差収率と一重項酸素生成、また一重項酸素とチオ核酸塩基との高い反応性の結果、PDT効果を得ているものと結論できる。更に、多光子励起スペクトルの測定に成功し、レーザー光照射によって長波長の光でチオ核酸塩基を励起できることを明らかにした。
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