反応物理化学では、ポテンシャルの概念はダイナミックスを理解するための重要な鍵となるが、分子多電子励起状態においては、それは非局所な複素数となる。本研究ではこの特異なポテンシャル上でのダイナミックス解明を目指し、半古典モデルの検証を行う。そのため、対称性分離した水素分子2電子励起状態からの準安定解離フラグメントH(2s)の運動エネルギー測定のための実験手法を確立し、量子状態を可能な限り特定した断面積を測定することを目的とする。 平成24年度は、これまでに設計・組上げ・テスト・設計修正と準備してきた実験装置を用い、飛行時間測定に基づくH(2s)フラグメントの運動エネルギー測定を試みた。すでに前年度までにある程度の開発は終了し、運動エネルギー測定の目途はついていたがていたが、その後、高エネルギー加速器研究機構放射光研究施設の運転モードがシングルバンチ運転からハイブリットモード運転に変わり、入射光パルス間隔が624ナノ秒から約170ナノ秒と短くなってしまうという問題がもちあがった。ハイブリッドモードは当初はテスト運転という位置づけであったと認識していたが、定常的にシングルバンチ運転が廃止されることになり、これに対して対応せざるを得ない状況となった。このため、余計な入射光パルスからのH(2s)信号を「間引く」ための機構、つまり、クエンチャー電極の形状改良、および、パルス電圧印加用のパルサーの変更など、考えうる改良を施しハイブリッドモードでの実験に臨んだ。実験結果を吟味した結果、現在の方式ではH(2s)原子の飛行時間測定は断念せざるを得ないと結論付けた。
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