効率のよい光-化学エネルギー変換を行う分子素子を設計する上で、電子ドナー(D)-アクセプター(A)系における立体構造および電子状態がどのように電荷分離および電荷再結合過程を制御できるのかに大きな関心が持たれる。最近、オリゴシランで架橋したD-A連結系の分子内電子移動過程が観測され、長距離電子移動効率におけるSi-Si結合によるシグマ共役の役割が注目されている。本研究では、様々な機能性分子やタンパク質の系において生成する光電荷分離状態の分子立体構造および電子的相互作用の解析を進めた。フラーレンと亜鉛ポルフィリンを様々な鎖長のオリゴシランで架橋した分子についての光電荷分離状態の立体構造および電子的相互作用を決定した。直鎖状に延びた立体構造を持つ分子では、ケイ素間のσ結合に関与する電子軌道の非局在化が電子伝達のワイヤーとしての機能をもたらすことを、時間分解EPR法によって具体的に明らかにした。さらに、ヒトタンパク質に薬物を分子認識した人工光合成分子を作成し、このタンパク質複合体において、長寿命な近距離および長距離光電荷分離状態を人工的に効率よく生成させることに世界で初めて成功した。近接している中間体分子対においては、直交した立体配置が電子雲の重なりを大きく抑制し、もとの安定な分子に戻らないようにすることによって効率よく光エネルギー変換を起こす様子が明瞭に捉えられた。さらに、有機薄膜太陽電池の光活性層におけるバクルヘテロ接合が光電変換機能を生じる仕組みを明らかにするため、時間分解電子スピン共鳴法を用いポリチオフェン:PCBMブレンド膜界面に生成する光電荷分離状態の立体構造と電子的相互作用を決定した。チオフェン側鎖の揺らぎ運動が電荷解離に対するエントロピー増加に大きな役割を果たし、ポリマー結晶層における芳香環同士の相互作用が電荷の長距離伝達機能を生み出すことを示した。
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