研究概要 |
光合成系のphotosystem IIの酸素発生複合体(OEC)では、昨年度、3.5Åの解像度のX線構造であるPDBid:1S5Lを基に、反応活性中心であるCaMn_4O_4クラスターを中心にモデルを構築し、水2分子から酸素分子への4電子酸化の反応機構の解明を計画に沿って実行していた。しかし、23年度の5月に1.9Åの高解像度のX線構造が発表された。クラスター周囲に水分子が解像されるなど非常に信頼性の高い構造であると判断し研究対象を切り替えた。CaMn_4O_5クラスターを中心にモデルを再構築し、Kok cycleに示される五つの酸化状態(S_0~S_4)に対応する分子構造と電子状態をまず決定することとし、その後、各状態間の構造変化を追跡しOECの触媒(反応)機構の全解明を試みることとした。本年度は五つの酸化状態を決定したが、現在多くの議論がなされ未解決の事象に対し結論を与えることが可能となった。本年度得られた研究成果は、1)S_0状態のMnの酸化状態は、Mn_4(II,III,IV,IV)ではなくMn_4(III,III,III,IV)である。2)S_1状態において脱プロトン化される水分子は、Mnに配位する水分子であってCaに配位する水分子ではない。3)S_1とS_2状態のMnの酸化状態はそれぞれ、Mn_4(III,III,IV,IV)とMn_4(III,IV,IV,IV)であり、S_2状態まではMnが酸化される。4)S_3状態ではMnが酸化されてMn_4(IV,IV,IV,IV)へと変化するのではなく、脱プロトン化したOH陰イオンが酸化されMn-O結合が形成されO上にラジカルが出現する。Mnの酸化状態はMn_4(III,IV,IV,IV)とS_2状態から変化しない。5)Ca上の水分子が酸化反応のsubstrateであるとの提案があるが、Ca上の水分子が酸化されることはない。 これらの結果を本年1月に速報誌に発表した。これらの研究成果は未解決問題に大きなインパクトを与えるものと確信している。現在、本論文にするべくまとめている状況である。
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