研究概要 |
(1)クロラニル酸‐モルフォリン(1/1)化合物について、単結晶X線構造解析を114から338 Kの範囲で、塩素核四極共鳴周波数測定とスピン-緩和時間の測定を4.2から420 Kの範囲で行った。この系では、クロラニル酸間でO-H...Oの水素結合より一次元鎖を形成しており、モルフォリンイオンはこの一次元鎖をN-H...O 水素結合で橋掛けをしている。プロトンはO-H...O水素結合の一次元鎖中で無秩序状態にあり、塩素核四極共鳴周波数の異常な温度変化は無秩序状態にあるプロトンの占有率の変化によるものであることを明らかにした。さらに、単結晶X線構造解析より求めた占有率と塩素核四極共鳴実験より求めた占有率では有意の差が低温領域で出てくることを見出した。この原因の一つとしては水素結合の供与・受領原子の孤立電子対が係わっていると考えられる。以上の知見は学術誌Phys. Chem. Chem. Phys.に発表した。これについて更に定量的な議論を行うためには単結晶X線構造解析の低温側の測定範囲を広げる必要があることが分かった。残念ながら現有の装置では100 Kまでしか測定できないため、今後60 Kまで測定できる装置の導入を図り、さらに精密な解析を行う予定である。(2) 以前、異核原子間水素結合系でプロトンが、無秩序状態を取ることを見出したクロラニル酸ー4-シアノピリジン(1/1)化合物に別の結晶構造を持つものを見出した。この結果は学術誌Acta Cryst. Eに発表した。(3) クロラニル酸ー1,3-ジアジン(1/2)塩の室温相と低温相について110から260 Kの温度範囲で単結晶X線構造解析を行い、酸―塩基間で無秩序化している二つの水素結合とクロラニル酸分子内の結合距離の温度変化を調べ、無秩序化しているプロトンの運動モードを求めた。この結果は日本化学会大93春季年会で発表した。
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