内殻励起光化学の興味の一つは,分子の内殻励起に伴う特異な反応過程を詳細に調べ,これを積極的に活用することにある。分子の内殻電子の励起(内殻励起)後に並行して起こる,特異的解離という速度の速い反応とエネルギー緩和を受けた後解離する比較的遅い反応を実験的に区別して観測するとともに,それぞれの生成過程を解明することを本研究の目的とする。特に,解離片の同時計測に基づき,準安定解離イオン種の同定とその生成過程・解離挙動について詳細に探る。今年度は以下の研究を実施した。 本課題初年度の実験で用いたパーフルオロシクロブタンは半導体産業で多量に用いられているが,地球温暖化係数が高いため,その適切な代替化合物を見つけることが求められる。ヘキサフルオロシクロブタンは候補のひとつであるとみなされ,その解離挙動の調査が望まれている。本年度はcis-ヘキサフルオロシクロブタンの内殻励起・解離実験を行った。多重イオン同時計測法により,この分子の解離機構はフッ素を脱離した後に炭素-炭素結合が解離する経路が主で,2つの炭素-炭素結合が同時に解裂する経路も存在しており,パーフルオロシクロブタンの経路と同様の機構であることが明らかとなった。 また,アニリン分子の内殻励起・解離に関する研究として解離イオンの質量スペクトル測定を行った。窒素内殻領域での特異的解離が観測されたとともに,環パーミュテーションと呼ばれる環の組み替え現象が速い過程で起こっていることが分かった。
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