研究概要 |
レーザー蒸発法により溶媒和金属イオンを気相中に生成し,質量分析法により溶媒分子数ごとにクラスターを選別・分離した上で,光解離分光法によりその赤外スペクトルを測定した.得られた赤外スペクトルを解析して,溶媒和金属イオンの構造を決定した.また,理論計算により溶媒和金属イオンの電子構造や幾何構造,赤外スペクトルを予測し,実験結果との比較を行った.本年度は,以下の4課題に関して研究を行った. 1.Co^+(H_2O)_n:Co^+(H_2O)_3+H_2O会合反応について2次元ポテンシャルエネルギー曲面の計算を行った.水素結合構造に対応するエネルギー極小が入口チャンネルに存在するため,Coへの直接配位が制限されることが分かった.これまでの成果と合わせて,水和初期過程におけるCo^+の配位不飽和について解明することができた. 2.V^+(NH_3)_n:昨年度よりも高精度の理論計算を行ったところ,n=6では6配位構造が最安定であった.それにもかかわらず実験で4配位構造が観測されたのは,エントロピーの効果であると結論した.これまでの成果およびV^+(H_2O)_nの結果と合わせて,中心金属の電子配置と配位構造との関係について解明することができた. 3.Fe^+(NH_3)_n:理論計算によると,n=3および4の配位構造は,それぞれY字型および正四面体型であった.n=3では,3配位構造が支配的に観測され,n=4,5では,3および4配位構造が共存していることが分かった. 4.Cu^+(HCONH_2)_1:Cu^+とホルムアミドとの錯体についてMP2計算を行った.O原子に単座配位した構造が最安定であること,2座配位構造は約70kJ/mol高エネルギーであること,N原子に単座配位した構造は安定ではないことが分かった.また,赤外分光による各異性体の区別が可能であることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成22年度からの「3~10族の遷移金属イオンの配位・溶媒和構造」については,継続中のCo^+(H_2O)_nおよびV^+(NH_3)_nの研究を進展させ,本年度新たにFe^+(NH_3)_nおよびFe^+(H_2O)_nの研究を開始した.また,本年度からの「金属イオンと複数の配位部位をもつ生体関連分子との結合」については,Cu^+(HCONH_2)_1の構造決定が順調に進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
本年度研究を開始したFe^+(NH_3)_nおよびFe^+(H_2O)_nにおいては,nの増加に伴いFe^+のスピン状態が変化する可能性がある.その点を考慮した理論計算を行って,配位・溶媒和構造およびスピン状態を解明していく.一方,Cu^+とアルキル鎖の長さが異なるアルキルジアミンとの2座配位錯体について理論計算を行うことにより2つのN原子の相対位置と結合エネルギーの関係について調査する,その結果を参考にして,ホルムアミドよりも適切な2座配位の生体関連分子を選択し,「金属イオンと複数の配位部位をもつ生体関連分子との結合」の研究を推進する.
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