レーザー蒸発法により溶媒和金属イオンを気相中に生成し,質量分析法により溶媒分子数ごとにクラスターを選別・分離した上で,光解離分光法によりその赤外スペクトルを測定した.スペクトルを解析して,溶媒和金属イオンの構造を決定した.また,量子化学計算により溶媒和金属イオンの電子構造や幾何構造,赤外スペクトルを予測し,実験結果との比較を行った.本年度は特に,クラスターイオンの温度に着目した.量子化学計算の結果を用いて分子分配関数を求め,ギブス自由エネルギー(G)を計算することによりエントロピーの効果を考慮し,有限の温度における種々の異性体の相対安定性を予測した.これに加えて,クラウンエーテルと遷移金属1価イオンとの包接錯体についても量子化学計算を行った. 1.水和Feイオン:水分子数が6~8の場合,赤外分光実験の結果が2配位構造を示唆するのに対して,量子化学計算により最安定となるのは3あるいは4配位構造であった.Gを計算したところ,温度上昇に伴って2配位構造の相対安定性が増し,60~90K以上で最安定となった. 2.水和Vイオン:水分子数が4の場合,低温条件下の分光実験では4配位構造のみが観測されるのに対して,高温条件下では3配位構造が出現した.Gを計算したところ,低温では4配位構造が最安定であるが,温度上昇に伴って逆転が起こり,高温では3配位構造が最安定となった. 3.18-クラウン-6による金属イオンの包摂:Naイオンを包摂してもクラウンエーテル部分の6回対称性は保持されることがわかっている.一方,遷移金属イオンを包接すると,6回対称性が崩れて6ヶ所の金属-酸素原子距離が一定でなくなり,Cuイオンの場合は直線2配位,Niイオンの場合は平面4配位構造に変形した.各金属原子に特有な配位構造の選択性は,水和の場合のみならず,包接錯体においても見られることが分かった.
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