グラファイト型窒化炭素(graphitic carbon nitride:g-CN)の構造と電子状態に関する理論的解析を行った。最近の実験によって、この材料が水分解光触媒となる可能性や、光電流を発生する光電変換材料となる可能性が示唆されている。本研究の目的は、このような光化学的性質を発現する重要因子を解明すること、およびこの材料の置換位置あるいは格子間位置に不純物元素を導入することによって、光化学的性質がどのように変化するかを理論的に予測することである。 H22年度においては、g-CNの電子基底状態および励起状態における構造的特徴、電子状態的特徴を電子状態理論によって解析するとともに、電子励起に伴う水分解の反応過程のエナジェティックスについて検討した。水分解過程では、OH結合の活性化が最も重要な反応過程となる可能性があることが分かった。反応サイトとしては、3つのヘプタジン環で囲まれた空孔部位が最も重要であると思われる。また、分子設計の観点から、BやPなどのヘテロ原子を置換位置に導入することによって生じる電子的因子(分子構造やイオン化エネルギー、電子親和力、光吸収特性)の変化についても解析を行った。これらのヘテロ原子を導入すると、HOMO-LUMOギャップ内に特有の不純物準位が形成される。これが特異な光吸収挙動や導電性を引き起こす原因になると考えられる。更に、格子間位置への不純物ドーピングに関する検討を行い、金属イオンを適切に遷択することによってg-CNの分子構造と電子状態を制御できる可能性があることを見出した。
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