研究概要 |
気体電子回折はマイクロ波分光法と並び,気体状態の精密な分子構造を研究する有力な実験手法である。これまで沸点の高い分子は気体電子回折の研究対象になりにくいことや,回折像の記録媒体が写真やイメージングプレートでは,反応中間体,遷移状態といった短寿命分子の回折像を測定することが困難であることから,実験対象に制約があったのが現状である。 本研究の目的は,「気体電子回折装置の多機能化」にある。具体的にはレーザーアブレーション・ノズルの製作と回折データ検出系の開発を行う。将来的には気体試料を質量選別した上でその回折像を測定する装置の開発へと展開し,超分子・クラスター・化学反応の中間体といった分子を対象とした,気体電子回折の新しい研究手法の確立を目指す。 本研究では開発した装置を用いて,最近発見された直線炭素鎖分子であるHC_4OHの精密な分子構造の決定と反応メカニズムの解明を試みる。このような分子の基礎データを蓄積することは分子科学のみならず,電波天文学や宇宙物理学など他の分野への貢献も大きいものであると考える 本年度は,電子回折装置の真空装置の改良,高温ノズルの新規設計,回折像の検出システムの試作を行い,現有の気体電子回折装置の高機能化を行った。研究対象であるHC_4OHの生成法については,回転スペクトルの観測データを参考にすることにより,熱分解反応の最適な実験条件が見出されたので,これを気体電子回折のデータ測定に応用するため,装置のレイアウトを検討した。また現在使用している写真法とCCDカメラによる検出システムを簡便に切り替えられるような装置をデザインし,試作した。
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