研究概要 |
近年、我々の研究室では、NOの前期解離性を有するRydberg状態8f、9f、8sσ、8pσから、遠赤外領域(λ≧15μm)の誘導放射光を観測することに成功した。遠赤外発光が観測されたRydberg状態の蛍光量子収率がほとんどゼロであることから、室温における周囲の黒体放射が遠赤外発光のトリガーであると考えた。今年度は、新しい検出器(ボロメーター)を導入し、今まで発光が観測されたことがなかったRydberg状態9sσ(υ=0)と10sσ(υ=0)から、遠赤外領域の誘導放射光を測定することに成功した。9sσからは9sσ→8pσ遷移による40μm、10sσからは10sσ→9pσ遷移による60μmの発光を観測した。9sσと10sσ状態の蛍光量子収率がほとんどゼロであることと、発光波長が遠赤外領域であったことから、今回観測された発光も、黒体放射がトリガーとなる誘導放射光であると考えられる。また、分散発光スペクトルと、ドライアイスを用いた冷却実験から、黒体放射を吸収することによる、8f←9sσ(0,0)および9f←10sσ(0,0)励起経路の存在が示唆された。f⇔sσ遷移は通常は禁制遷移であるが、s⇔d mixingにより遷移が許容されたと考えられる。黒体放射を吸収することによるRydberg状態間の励起経路の存在は、原子では観測されてきたが、分子のRydberg状態間での測定は今まで報告例がなく、本研究が初観測である。
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