本研究は、魚類の血液中に含まれる不凍タンパク質anti-freeze protein (AFP)の水の結晶成長制御機能を過冷却水の高密度水(HDL)と低密度水(LDL)クロスオーバーの観点から解明するために、タンパク質水和水やタンパク質自身の構造やダイナミクスを中性子・X線散乱で観測することを目的としている。本年度は(1)AFPの分離精製を行い、(2)これまでに動的クロスオーバーが確認されているタンパク質表面水、ならびに(3)多孔性シリカガラスに閉じ込められた水について、構造やダイナミクスを中性子・X線散乱で観測した。 (1)租精製の不凍タンパク質を入手し、飛行時間型質量分析装置ならびに高速液体クロマトグラフィーにより、AFPの存在を確かめ、sephadex担体を用いたゲルろ過クロマトグラフィーにより精製した。そして、中性子小角散乱を測定し、AFP分子の大きさと形状を求めた。 (2)AFPの比較となるタンパク質について、非弾性中性子・X線散乱を測定し、動的構造因子を得て、溶液中ならびに水和粉末でのタンパク質の運動を観測した。タンパク質の構造や運動と溶媒分子の運動との関連についても研究した。同様の方法がAFPの研究に適用できることを示した。 (3)多孔性シリカガラスに閉じ込められた水について、単層吸着水はstrong液体の挙動を示す一方、毛管凝縮水は220K以上の温度ではfragile液体であった。したがって、細孔水のダイナミクスは不均一であり、中心部に近い水はよりバルク水(fragile液体)に近いと思われる。結果として、タンパク質表面水で観測される220K付近でのfragile-strong転移は細孔水の中心部に近い水の性質を反映しているものと推測した。
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