研究の目標は、基本的な分子の光電離過程について、低速光電子回折と見なすことができる光電子運動エネルギー領域におけるダイナミクスを実験的に調べ、理解することである。 10 kV まで得られる定電圧高圧電源を準備し、現有のコインシデンス運動量画像測定 (CO-VIS) 装置に高電圧が掛けられるよう改良を行ってきた。また、高電圧印加の妨げとなる装置電極の汚染に対して強化するため、電極表面に不活性金属を蒸着する改善を行った。この改良により、大きな運動エネルギー (240 eV 程度まで) を持って飛び出す光電離過程について解離反跳座標系光電子角度分布 (RFPAD) の測定が可能になった。これにより、基礎過程としての光電離ダイナミクスについて、より幅広い運動エネルギーを系統的に議論することが可能になった。 そこで、すでに測定していた CO 分子の分子座標系光電子角度分布 (MFPAD) の形状の起源について、理論計算の結果に基づきその詳細に解釈を与えた。2 原子分子の内殻 MFPAD の形状は、基本的に 1s から kp への局所的な遷移により生じた p 波が隣接する原子により散乱を受け、直接波の kp 波と散乱により生じた波との干渉により形成されることが明確になった。気相分子の内殻光電子回折現象の基礎過程を理解することができた。そして、より大きな分子にこの手法を適用したときに、過渡的な分子構造を最適化により導きだすための目処を付けることができた。 一方、振電準位を分離する高分解能での MFPAD 測定について、他の研究資金により、軟 X 線放射光用のパルスセレクターの 1 号機を完成させることができた。減速レンズ付き電子飛行時間分析装置のための要素も大部分が準備でき、実証実験を行う準備が整った。
|