擬似分子内反応は規な概念でありながら、まだ適用できる基質は少なく、一般的な合成手法であるとは言い難い。そこで、他の基質や試薬を用いて多様な骨格を構築し、本反応の汎用化を図ることを目的として検討を行なった。 基質として、α-ニトロ-δ-ケトニトリルを用いて、ジアミン類との反応を行なった。その結果、室温で即座にイミンを形成することを確認した。通常、ケトンとアミンを混合してもイミンが形成されないことから、本過程は擬似分子内で効率良く進行した結果であると言える。また、この塩を加熱したところ、タンデム型ビシクロ化反応が進行し、複数の官能基を有するジアザビシクロ[3.3.1]ノナン骨格が合成できることを見出した。本反応は炭素鎖の異なるジアミン類にも適用でき、それぞれ対応するビシクロ化合物に変換できることも明らかにした。 擬似分子内反応の基質に要求される条件は、酸性度の高い水素と官能基を併せ持つことである。このような化合物は分子設計も比較的行なうことができる。そこで、2段階で簡便に調製できるα-ニトロ-δ-ケトエステルを用いて、同様の反応を行なったところ、予想した通りビシクロ化合物に変換することに成功した。この結果より、基質の条件を満たせば、他の基質にも擬似分子内反応の概念を適用することができることを示している。従って、今後、従来法では合成が困難であった多官能化合物を合成するための手法としての幅広い利用が期待される。
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