研究概要 |
平成23年度は,S≡N結合とS=NH結合を備え持つndsaH配位子と両端にS≡N結合を有するndsdsd配位子を用いて,i)発色団として用いられるジイミンやフェニルピリジン誘導体からなる混合配位子型Pt(II)錯体を合成し,その発光特性の向上を目指した。また,ii)[Pd(ndsdsd)2]X2錯体の発光特性に関す研究においては,発光機構を明らかにする目的で,Pd錯体の各溶媒に対する溶解度を高めるため,ndsdsd配位子のフェニル基を-t-ブチルフェニル基に置換したntstsdの合成を試みた。 i)に関しては,前年度にフェナントリン誘導体とndsaとの混合型Pt(II)錯体において,10%を超える比較的高い量子収率を示す発光性金属錯体の合成に成功した。今年度は,さらに発光効率の高い錯体合成を目的として,ベンゾピリド[b:3,2-h:2'3'-]ヘナジン(bdppz)配位子とndsaとの混合配位子型Pt(II)錯体の合成を試みた。合成経路としては、塩基存在下[Pt(bdppz)Cl2]錯体とndsaHとの反応を種々の条件で検討したが目的とした錯体は得られなかった。今後は,配位子交換反応が進行し易いヘキサフルオロアセチルアセトナート(hfac)錯体を用いて,前駆体化合物[Pt(bdppz)(hfac)]X又は[Pt(ndsa)(hfac)]X錯体を合成し,これらを用いて目的化合物の合成を試みたい。[Pt(phen)(ndsdsd)]2X錯体では,対アニオンをPF6アニオンにすることで,これまでは,ガラス溶媒中でのみ発光が確認されたが,溶液中,室温で発光することが分かった。 ii)に関しては,前年度,4-t-ブチルフェニル基を有するスルフィミドとフルオロスルファンニトリルとを塩基存在下で反応させることで,合成に成功したが,今年度は,合成方法や精製方法の改善を行うことで,比較的効率よく生成物を得ることに成功した。また,[Pd(ntstsd)2]2Xの合成に成功し,メタノール以外の溶媒にも溶解することを確認している。今後は,溶媒に対する発光挙動を調べる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
混合配位型Pt(II)錯体の研究に関しては,ndsa及び,ndsdsdスルファンニトリル配位子と種々のジイミン系及び,フェニルピリジン系の錯体においては,室温での発光が確認できているが,高効率の発光性金属錯体の観点からは,まだまだ発展途上である。またパラジウム錯体においては,目的としていたntstsdの合成方法を確立したが,各種溶媒の発光挙動に関する調査は,次年度の実施を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
上述したように,発光効率を高めたスルファンニトリルを用いた金属錯体の合成を推進していく。今年度は,発光効率が期待できるジイミン系配位子との混合配位型錯体の合成を試みたが,目的は達成できなかった。今後は,その対応策として当初計画していたヘキサフルオロアセチルアセトナート配位子の交換反応を利用して,目的の錯体を合成する。また,最近,ホウ素を利用した陰イオンセンサーが注目されている。今後は,発光特性を利用した陰イオンセンサーの開発についても研究を進めることを計画している。
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