研究概要 |
本研究は立体化学的に熱平衡に達する前の特定の配座を持つカルボニルをジオキセタンの固相での分解により捕捉しようとするものである。本年度における研究実績は次のとおりである。3-ヒドロキシフェニル置換の双環性ジオキセタン(トリオキサビシクロ[3.2.0]ヘプタン骨格)は非極性溶媒中での熱分解において飽和ケトンに由来する発光を示す。一方、結晶状態で加熱すると最大発光波長463nmの発光を示した。標品エミッターの蛍光測定結果や塩基誘発分解発光の結果から、上記双環性ジオキセタンは結晶状態においては均一系での熱分解発光と異なり電荷移動誘発分解(CTID)型の発光をしていることが分かった。また、X線単結晶構造解析によると上記ジオキセタンでは芳香環のヒドロキシ基がもう1分子のジオキセタン環O-Oと分子間水素をしていることからCTIDを起こしていると推定された。そこで、結晶での熱分解において、ジオキセタンのヒドロキシフェニル基の分子間水素結合を積極的に利用することを考えた。このような目的に叶う高融点結晶性のプロトン受容体としてN,N’-ジフェニルウレアを選び、結晶性混合物の加熱分解を行ったところ、期待通りCTID型発光が観測された。結晶場でのCTID型発光はキンクエフェニル置換ジオキセタンでも観測され、さらにDMAPやTBDのような結晶性の塩基共存下ではより強い発光となることが分かった。 以上のように固相での発光分解では、ジオキセタン同士の分子間水素結合により誘発される発光、ジオキセタンと置換尿素のような中性のプロトン受容体との水素結合に基づく発光、そして結晶性塩基により誘発される発光系を見出した。これに加えて、ベンゾアゾリルフェニル基の分子内水素結合により誘発される固相での発光系をすでに見出している。さらに、ジオキセタンが溶融状態でエキシマー型の長波長発光を起こすことも見出した。
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