研究概要 |
分子機械の回転機能制御に関する基礎的研究として,トリプチセン骨格を3枚歯部品に用いた平行型分子歯車を設計し,いくつかの基本化合物を合成した.まず,合成法を確立するために,歯車部に9-トリプチシル基,軸部にエチニル基,土台部に1,8-置換アントラセンをもつ化合物の合成を行った.その結果,Sonogashiraカップリングを鍵反応として用いると,効率的に目的化合物が得られることが明らかになった.続いて,置換基を導入した歯車部,ジアセチレン軸部,ナフタレン土台部をもつ誘導体を同様な方法で合成した.合成した化合物の分子構造をX線解析およびDFT計算で調べ,2つのトリプチシル基の噛み合いの程度と軸の平行性を評価した.ジアセチレンとアントラセンを部品にもつ化合物では軸角度が21°であり,従来のかさ歯型歯車と比較して大幅に軸の平行性が向上した.歯車の回転過程は,2位にメチル基を導入した歯車をもつ誘導体で調査した.温度可変NMRの測定データから,低温でも回転が十分に遅くならないことがわかった.モデル化合物を用いて,2種類の回転機構の遷移状態の理論計算を行った.その結果,独立回転が相関回転より高い障壁をもつことが示された.これらの結果をもとに歯車の回転機構を提案し,それを補強するために嵩高い置換基もついくつかの誘導体を合成した.さらに多様な構造と高度な機能をもつ歯車を創出するために,9,9’-ビアントリルを4枚歯歯車にもつ誘導体および環状骨格をもつ誘導体を合成するための予備的な合成実験も行った.
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