研究概要 |
分子機械の回転機能制御に関する基礎的研究として、トリプチセン骨格を3枚歯部品に用いた平行型分子歯車を設計した。これまで2年間に合成した基本化合物をもとに、高度な歯車機能をもつ化合物およびトリプチセン骨格以外の歯車部をもつ化合物を合成した。 歯車機能の高度化については、複数のトリプチセンを環状構造に組み込んだ分子を標的とした。4つの歯車を組み込んだ大環状化合物は非常に難溶性であり,可溶性置換基であるジアルコキシフェニル基を導入することで,合成と精製に成功した。DFT計算により,歯車部は立体的に相互作用していることが確かめられた。また,歯車部をさらに接近させ,分子ひずみと回転機能の効果を調べるために,剛直な骨格をもつ環状化合物の合成を試みた。合成を効率化するために,鍵となるユニットとして9,10位に異なるエチニル基をもつトリプチセン誘導体を調製した。この化合物を用いて,2つの歯車を非常に接近させた環状化合物の前駆体を簡便に合成することが可能になった。 多様な歯車として2枚歯構造をもつ9-置換アントラセンユニットを用い,ユニット間の相互作用を研究した。1,8-置換アントラセンの土台部にアセチレンリンカーを介して2つのユニットを組み込んだ4種類の化合物を,Sonogashiraカップリングを用いて合成した。X線構造では,パイ電子系間の引力的な相互作用のため,ユニットが接近するような顕著な分子の変形が認められた。多数のアントラセンをアセチレンリンカーにより連結した環状オリゴマーも合成し,温度可変NMRの測定から分子の動的挙動の特徴を明らかにした。これらの結果から,分子構造と歯車機能および分光学的性質の関連性を考察した。
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