以下に記す新規な14族元素配位子を有する錯体の合成,構造と反応性について研究した。 1)アセチリド-シリレンタングステン錯体に関する研究:以前研究したトルエン中でのアセチリド-シリレン錯体とアセトンとの反応では,シリレン(SiR2)とアセチリド(CCR')配位子の間にアセトンが挿入した-SiR2-O-CMe2-CR'C-骨格をもつ生成物が得られたが,今回アセトン中で反応を行ったところ,骨格転位が起こって-CMe2-O-SiR2-CR'C-骨格をもつ生成物が得られることを見出した。また低温で反応を行い,アセトンがη2配位した興味深い構造をもつ反応中間体の単離に成功するとともに,その二電子供与配位子に対する反応性についても検討した。 2)アセチリド-ゲルミレンタングステン錯体に関する研究:アセチリド-シリレン錯体と結合性および反応性を比較するために,対応する置換基をもつアセチリド-ゲルミレン錯体を合成した。結晶構造の比較から,アセチリド-ゲルミレン相互作用はアセチリド-シリレン相互作用に比べて弱いことが明らかになった。また,アセトンおよびDMAPとの反応について研究し,アセチリド-シリレン錯体が安定な付加体を与えるのに対し,アセチリド-ゲルミレン錯体は付加体との平衡混合物を形成することを見出した。 3)β-アゴスティックSi-H結合を有するシリルメチルタングステン錯体に関する研究:置換活性なメチル(ピリジン)タングステン錯体とt-BuMe2SiHとの反応によって,-CH2SiMe(t-Bu)H配位子のSi-Hが金属中心にアゴスティック相互作用している特異な構造をもつ錯体が得られることを見出した。重ベンゼン中でのこの錯体と三級アルキルシランの反応について検討し,ビス(シリル)ヒドリド錯体の生成やH/D交換反応が起こることを明らかにした。
|