本研究はフタロシアニンの骨格中心部(コア)を修飾した「コア修飾型フタロシアニン」を合成し,新しい錯形成能,熱特性,分光特性を見出すことを目的としたものである.最終年度は,これまでの結果を踏まえ,以下の2つのアプローチによる研究を行った. 1つめのアプローチとして,これまでに開発した,マイルドな条件で塩基を利用するフタロシアニン合成法(低温リチウム法)を応用し,新しい構造を有するフタロシアニン型錯体合成を試みた.各種金属イオンを用いた合成を検討した結果,カドミウムイオンを用いた場合に6配位3枚羽型のコア修飾型フタロシアニン類縁体を得ることができた.このような構造は,これまでランタノイドなどのイオン半径の大きな3価の金属のみで知られていたが,本研究により初めて2価金属による合成例を得ることができた.一方,コバルトイオンを用いた場合は四面体配位子場を有する2価コバルトコア修飾型フタロシアニン類縁体を得ることができた. 2つめのアプローチとして,得られた新規錯体の物性評価を行った.具体的には,上述した正四面体配位子場コバルト錯体に対して,動的磁気特性の評価を行った.この錯体はコバルトが2価であり,正四面体配位子場であることからハイスピン状態であることが期待される.このような錯体は理論的にはスピン軌道相互作用により磁気容易化軸を持ち,低温での磁気緩和の遅れが現れることが期待される.しかし,この構造要件を満たす錯体の合成例が少なく,磁気物性に関して十分な知見は得られていなかった.本研究で,合成したコア修飾型のコバルトフタロシアニンは,ほぼ理想的な配位構造であり,その交流磁化率の測定により,低温下での磁気緩和の遅れが明確に観測された.また,この現象が交流磁場周波数に依存することから,この錯体が単分子磁石(SMM)特性を示すものであることが明らかとなった.
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