研究概要 |
研究代表者は最近、水素結合により自己会合したポリ酸アニオンの質量分析に世界に先駆けて成功した。その際に検出されたアニオン会合体の中に、アニオンの負電荷を上回る数のカチオンと結合することにより、正に帯電したイオン対として検出されたものが見られたことに着想を得て、イオン対形成が水素結合による弱い相互作用での分子会合を安定性化するという仮説を立てた。本研究は、デカバナジン酸[H_nV_<10>O_<28>]^<(6-n)->をプローブとして、この仮説を検証することを目的とする。平成22年度においては、アルキル鎖長が4~8の四級アンモニウム[(n-C_mH_<2m+1>)_4N]^+(m=4~8)を対イオンとするデカバナジン酸塩アセトン溶液のESI質量分析を行った。いずれの塩においても、デカバナジン酸イオンの水素結合二量体[(H_3V_<10>O_<28>)_2]^<6->が四級アンモニウムイオンと形成するイオン対{[n-C_mH_<2m+1>)_4N]_5[(H_3V_<10>O_<28>)_2]}^-および{[(n-C_mH_<2m+1>)_4N]_7[(H_3V_<10>O_<28>)_2]}^+が検出された。また、テトラブチルアンモニウム塩について、さらに条件を最適化した測定を行ったところ、従来見いだされていたデカバナジン酸イオンの水素結合二量体のみでなく、四量体が10個のテトラブチルアンモニウムイオンとイオン対を形成した{[(n-C_4H_9)_4N]_<10>[(H_3V_<10>O_<28>)_4]}^<2->に帰属されるピークが見いだされた。この四量体は、研究代表者によるX線小角散乱および^1H,^<51>V-NMRの研究では見いだされていない化学種であるため、今後その存在条件および構造の詳細について研究を進めてゆく予定である。
|