研究課題
研究代表者は最近、水素結合により自己会合したポリ酸アニオンの質量分析に世界に先駆けて成功した。その際に検出されたアニオン会合体の中に、アニオンの負電荷を上回る数のカチオンと結合することにより、正に帯電したイオン対として検出されたものが見られたことに着想を得て、イオン対形成が水素結合による弱い相互作用での分子会合を安定性化するという仮説を立てた。本研究は、デカバナジン酸[H_nV_<10>O_<28>]^<(6-n)->をプローブとして、この仮説を検証することを目的とする。平成23年度においては、ピリジニウム、ピコリニウムおよびルチジニウムを対カチオンとする系に対して、X線小角散乱および^<51>VNMRを用いてデカバナジン酸の会合状態を検討した。X線小角散乱においては、散乱曲線から求めた回転半径を元に、^<51>VNMRにおいては、これまでに蓄積した知見にもとついてスペクトルを解釈することにより、デカバナジン酸の会合状態を推定した。その結果、いずれの対カチオンについても、イオン対は形成しているものの、デカバナジン酸イオンの自己会合は見られないことが明らかになった。これらの系から得られた結晶のX線構造解析からも、溶液での研究結果と整合する構造が得られている。平成23年度に得られたアルキルアンモニウムを対カチオンとする系ではデカバナジン酸イオンが自己会合しているという結果と比較すると、本年度得られた研究結果はは、対カチオンの水素結合供与性が、デカバナジン酸イオンの自己会合挙動に影響を与えることを示している。
1: 当初の計画以上に進展している
対カチオンの水素結合供与性が、溶液及び結晶中でのポリオキソメタレート自己会合状態に影響を与えるという、これまで知られていなかった知見が得られたため。
ピリジニウム、ピコリニウムおよびルチジニウムがいずれも水素結合により自己会合したデカバナジン酸を解離させる効果を示すことは明らかになったが、その効果の強さについては十分に検討できていない。これら対カチオンの濃度を変化させた実験を行い、その効果の強さを見積ることにより、自己会合状態を解離させる作用の本質について考察を行う。
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