研究概要 |
ルテニウム錯体の光反応の研究において,我々はすでに酸化還元スイッチングによる配位子光解離のオンオフ制御,および二核錯体から単核錯体への可逆的光解離反応を利用したフォトクロミズムの実現に成功している。そこでこれらを統合して,酸化還元スイッチを有する新規な光機能性ルテニウム二核錯体の合成をめざしている.今年度はオンオフの効率をさらに向上させるため,各種ルテニウム単核錯体を用いた光解離反応における酸化還元スイッチングの検討を行った,スイッチング部位であるベンゾキノンのかわりにフェロセンを導入した三座配位子ターピリジンを合成し,その光配位子解離反応の酸化還元スイッチングを検討した.フェロセンを導入したルテニウム錯体とこれを一電子酸化したフェロセニウム体についてそれぞれ光配位子解離反応速度を測定したところ,フェロセン体の方が酸化型であるフェロセニウム体に比べ約1/10に反応速度が低下しており,フェロセン部位の酸化還元スイッチングにより光配位子解離反応の速度を制御できることがわかった.これは励起状態においてフェロセンからルテニウムへの光誘起電子移動により失活されるPET機構によるものと考えられる,リン光測定およびDFT計算からもこの推定を支持する結果が得られた.ベンゾキノンの場合も同じPET機構によるものと考えられるが,ベンゾキノンはアクセプター(電子受容体)として働くのに対し,フェロセンはドナー(電子供与体)として働く点が異なる,またベンゾキノンでは約1/40程度の差が見られたのに対しフェロセンでは約1/10と差が小さくなったが,これはフェロセニウム基がある程度アクセプターとして働き,PET機構による失活が生じたのではないかと考えている
|