研究概要 |
側鎖にピコリル基とグルコピラノシル基を有するキレート型糖修飾N-ヘテロ環カルベン(NHC)配位子前駆体、塩化-3-ピコリル-1-(2,3,4,6-テトラ-O-アセチル-D-グルコピラノシル)イミダゾリウム、の2つのアノマー異性体[α-pagiH]Clおよび[β-pagiH]Clを合成し、これを用いて金属中心周りに不斉を持つハーフサンドイッチ型錯体[MCp^*Cl(L)]X(M=Rh,Ir,L=α-pagi,β-pagi,X=Cl,PF_6)の生成反応を行い、側鎖のグルコピラノシル基のアノマー異性が錯体の立体配置にどのような影響を及ぼすかを検討した。X線結晶構造解析により、β-pagi配位子を持つロジウムおよびイリジウム錯体の主生成物が、金属中心まわりがRの不斉を持つ構造をとっていることを明らかにした。α-pagi配位子を持つ錯体では、結晶が得られなかったため構造解析はできなかったが、円偏光二色性スペクトルにおいて、β-pagi配位子を持つ錯体と正反対のコットン効果を示すことから、金属中心まわりがSの不斉を持つことがわかった。また、反応生成物の核磁気共鳴スペクトル測定により、α-pagi配位子を持つ錯体ではS体が、β-pagi配位子を持つ錯体ではR体が、主生成物として、それぞれ9:1程度の比でジアステレオ選択的に生成し、さらに、α-pagi配位子を持つ錯体では、グルコピラノシル骨格がスキュー型の構造をとっていることが明らかとなった。また、β-pagi配位子を持つR体は、S体へと異性化する。以上の結果から、NHC配位子に導入したグルコピラノシル基の立体障害により、速度論的にR体が選択的に生成すると考えられる。また、それぞれのジアステレオマーについて分子軌道計算により、S体が熱力学的な安定種であることを示した。
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