キレート型二座N-ヘテロ環カルベン(NHC)配位子の2つのN置換基の一方にβ-D-グルコピラノシルユニット、もう一方に他の置換基を組み込んだ非対称型配位子をもつ錯体の立体制御についての検討を行った。 キレート型二座NHC配位子では、2つのNHCユニットを架橋するアルキル鎖の配置によりキレート配位面の上下が非対称となり、NHC配位子の動的過程による異性化平衡の可能性を考慮する必要がある。そこで、まず糖を持たない対称型キレート二座NHC白金ユニットをもつ三核錯体を用い、温度可変NMR分光測定によるNHC配位子の動的挙動の検討を行ったところ、N置換基の種類に関係なく、メチレン架橋とプロピレン架橋の配位子では動的挙動が観測され、エチレン架橋の配位子では観測されなかった。 以上の結果に基づき、動的挙動による平衡を考慮しなくて良い、エチレン架橋のアセチル保護および脱保護β-D-グルコピラノシル基を導入した非対称キレートNHC配位子を用いて、パラジウム錯体の立体制御の検討を行った。NHC配位子以外の単座配位子として、水硫化物配位子を導入し、そのSHプロトンのシグナルの積分比により、ジアステレオマー比を調べたところ、もう一方のN置換基として長鎖アルキルを導入したNHCパラジウム錯体の場合、アセチル保護配位子では5:4、脱保護配位子では2:1であった。また、アントラセンメチル基をもつアセチル保護配位子では10:9で、平面錯体では、これまでに用いてきた八面体錯体のような優れたジアステレオ選択性が得られないことが明らかになった。 前年までに開発したクリックケミストリーを用いる方法で合成したピンサー型配位子を用いた場合にも、ジアステレオ比は4:3と良くなかったが、この錯体が水中での鈴木-宮浦カップリングにおいて、TONが70万を超える、非常に高い触媒能を示すことがわかった。
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