研究概要 |
新規蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)型化学センサーとして、ピレン又は7-置換クマリンをエネルギードナー(D)、2-アミノトリプタンスリンをエネルギーアクセプター(A)とし、DとAを長さの異なるポリエーテル鎖((OCH_2CH_2)_nO;n=1,2,3,4,5,6)やポリメチレン鎖((CH_2)_n;n=1,4)で繋いだ幾つかの系を合成し、その性質について調べた。 その結果、全般的にスペーサーの短い系、即ちD,A間距離の短いもの程、効率よく分子内FRETが起こることがわかった。しかし、D,Aへのスペーサーの導入部位の違いによっては、n=1の系で、立体障害等によりD,AがFRETに適した配向をとることが難しく、FRETが起こらない場合や、D,A間距離が近接しているために、D,Aの衝突に伴う熱的失活によると思われるD,A両方の蛍光消光を示す系も観測された。更に、FRETよりも光誘起電子移動(PET)による蛍光消光が優先する系も見られた。 金属塩添加による実験では、トリプタンスリンの2-位のアミノ基にスペーサーを導入してDのピレンと繋いだ系では、特にHg^<2+>,Cu^<2+>,Fe^<2+>,Fe^<3+>を添加した際に、FRET-onからFRET-offへの挙動、即ちAの蛍光消光とDの蛍光増大という顕著な蛍光変化が観測され、報告例の少ないHg^<2+>やCu^<2+>に対する蛍光"発光型"センサーとして応用できることがわかった。一方、8-位の酢酸基にスペーサーを導入してDのピレンと繋いだ系では、Hg^<2+>,Cu^<2+>,Fe^<3+>,Al^<3+>を添加することで、Aの著しい蛍光消光が観測されたものの、Dの蛍光増大は観測されず、Dから無蛍光のAの金属錯体へのFRETが、引き続き起こっていることが示唆された。 以上のように、新規金属イオン用FRET型化学センサーの開発において重要となる、幾つかの知見が得られた。
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