研究概要 |
多孔性材料の開発や機能解明には,メソ細孔内物質移動過程の研究が必要不可欠である。本研究では,細孔サイズを制御したシリカゲル,ODSシリカゲルを用い,単一微粒子操作法と顕微分光法を組み合わせた手法でメソ細孔内物質移動過程の速度論的解明を行った。 研究代表者の従来の研究では,シリカゲル等中における低分子色素の物質移動過程はポア拡散(細孔内溶液中の拡散)支配で,表面拡散等の寄与は小さかった。高分子では何カ所かで細孔壁面に吸着でき,表面拡散の寄与が大きくなるものと予想し,昨年度検討した酵素のシリカゲル細孔内物質移動過程を詳細に解析した。しかしながら,高イオン強度で酵素は吸着するがシリカゲルが溶解し,低イオン強度ではシリカゲルの溶解は無視できるが酵素が吸着しないことが判明し,解析は困難であることがわかった。そこでポア拡散を抑制できる系として,難水溶性化合物のODSシリカゲル/水系での物質移動過程を検討した。ペリレンを細孔直径12nmのODSシリカゲルに収着させ,この単一粒子を水に添加したところ色素は放出されず,ポア拡散は起こらないことがわかった。単一粒子を界面活性剤水溶液に添加すると色素は粒子から放出され,今まで観測されなかった特徴的な物質移動過程が議論できた。ペリレンでは表面拡散は速くなり,粒子表面の細孔出入り口で,直径10nmのミセルに取り込まれる過程が律速になることがわかった。今後,界面活性剤や色素を変化させ,この物質移動過程の詳細な解析を行う。 また,イオン強度低下に伴って電気二重層の厚みが増加し,細孔内と細孔出入り口での物質移動過程に影響を与えると考えられ,この解明も検討している。シリカゲルの溶解を伴う予備実験であったが,特徴的な物質移動過程も観測できている。今後,シリカゲルが溶解しないイオン強度で物質移動過程に及ぼす電気二重層効果の解析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
測定手法と解析法は確立し,本手法の特徴を活かして,細孔内及び細孔出入り口での物質移動過程の研究が進んでいる。しかしながら,高イオン強度条件下ではシリカゲルが溶解することが判明し,物質移動に及ぼす電気二重層効果の研究がやや遅れている。震災による復旧作業,節電対策に時間を割かれたことにも原因がある。
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今後の研究の推進方策 |
測定手法と解析法は確立しているので,今後,細孔内でのポア拡散,表面拡散,泳動,細孔出入り口での物質移動について,本手法の特徴を活かして詳細に検討する。高イオン強度条件下ではシリカゲルが溶解することから,高分子電解質の実験は困難であるが,低イオン強度下で細孔サイズを変化させることで,電気二重層の厚み/細孔直径比を変化させ,イオン種の物質移動過程に及ぼす電気二重層効果を解明する。また,界面活性剤共存下で特徴的な物質移動過程を見いだしつつあるので,界面活性剤や色素を変化させ,この解明を行う。
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