研究概要 |
(1)イオン認識能を有する多核金属錯体の創製:当初計画していた大環状ホウ素多核錯体は,生成した錯体が水と反応し易く不安定であったため,イオノホアとしての研究は困難であると結論付けられた。次に,サリチルヒドロキサム酸を架橋配位子とする鉄(III)の大環状多核錯体の合成を試みたところ,比較的安定な四核及び五核の錯体が混合物として得られた。これらの錯体はアルカリ金属イオンに対して明確な抽出能を示したが,錯体が混合物であるため選択性の評価には至らなかった。 (2)イオン認識能を持つ単核金属錯体の創製:三脚型の三価六座配位子である1,1,1-トリス[(サリチリデンアミノ)メチル]エタン及びそのメトキシ置換誘導体1,1,1-トリス[(3-メトキシサリチリデンアミノ)メチル]エタンを合成し,さらにこれらの配位子と三価金属(CoIII及びAlIII)との中性錯体を得た。これらの錯体は非常に安定であり,またそのジクロロメタン溶液をアルカリ金属塩の水溶液と振り混ぜた結果,アルカリ金属イオンがLi+<Na+<K+〓Rb+〓Cs+の序列で抽出されることが見いだされた。特に,メトキシ誘導体の抽出能と抽出選択能は,ジベンゾ-24-クラウン-8に匹敵するレベルであった。これより,このタイプの錯体がホスト化合物として機能することが確認された。 (3)錯体可溶溶媒としてのイオン液体の研究:いくつかの金属錯体は通常の疎水性溶媒に溶け難く,このことが錯体型ホスト化合物をイオノホアとして応用する際の課題となっていた。そこで,イオン液体を溶媒に用いることを考えた。平成23年度は基礎検討として,中性分子(芳香族化合物)及びイオン(有機イオン,レアメタル等金属イオン)に対するイオン液体自身の抽出能力を評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度に合成を計画していた錯体型ホスト化合物のうち,一部の多核錯体については,安定性や純度の問題によりイオノホアとしての研究を断念した。一方単核錯体では,イオノホアとして有望なものが見いだされた。また,錯体を溶かす媒体(溶媒)として新たにイオン液体に注目した結果,通常の溶媒には溶けにくい錯体を可溶化する可能性が見いだされ,錯体型ホスト化合物の分析化学的応用の可能性が広がった。
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今後の研究の推進方策 |
錯体型ホスト化合物としては,この2年間の研究で化学的安定性やイオン認識能力が確認された(アレーン)ルテニウム三核錯体と1,1,1一トリス[(サリチリデンアミノ)メチル]エタン誘導体錯体に絞り,これらをイオン液体等の種々の疎水性媒体に溶かしてイオノホアとしての機能を評価することによって,分析化学的有用性を確かめる。ゲストとしては,金属イオンのほかに,アミノ酸エステル等の有機イオンも検討する。
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