近年、クラスターイオンを二次イオン質量分析(Secondary Ion Mass Spectrometry : SIMS)における一次イオンビームとして用いることで、有機材料等を構成する大きな分子も検出できるようになり、半導体産業のみならず、化学分野等においても、SIMSの応用範囲が広がっている。SIMS法における大きな課題の一つは、試料分子のイオン化率の向上である。一般的に、イオンビーム照射によって試料表面から脱離する粒子の殆どは、二次イオンではなく電気的に中性な原子や分子である。特に有機分子の場合には、電子衝撃を用いる電子イオン化やレーザー照射による光イオン化では、分子の解離が問題となるため、有機分子をソフトにイオン化する新しい技術が必要となる。 一般的に、有機分子等の質量分析においては、外部からイオンを付加する手法がソフトなイオン化法として知られている。例えば、有機分子に1個のプロトンを付加することでフラグメントを抑制したイオン化が可能となる。 本研究は、試料分子の二次イオン化率を増大させるため、プロトン等のイオンを付加する手法を応用する。具体的には、水素や炭化水素等を含有する多価の帯電液滴を分析試料表面に照射することにより、二次イオン化率の向上を目指す。本年度は、実験装置を構築し、水素等を含有する液体に高電圧を印加して多価の帯電液滴を生成し、各種パラメーター依存性を調べた。本成果は、第57回米国真空学会において発表した。なお、本学会は、米国真空協会(AVS)の主催により毎年開催されるもので、北米はもとより、欧州やアジアからも多くの参加者があり、真空に関する最も大きな国際学会である。
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